デヴィッド・クローネンバーグ - ヒストリー・オブ・バイオレンス

ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]

ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]

 インディアナ州の田舎町で小さな食堂を経営するトム(ヴィゴ・モーテンセン)は、妻と子供たちと共に平凡で穏やかな生活を送っていた。ある日、トムの食堂に二人組みの強盗が押し入り、従業員や客に拳銃を突きつけるが、見事なトムの手腕によって強盗は撃退され、一夜で町のヒーローに祭り上げられてしまう。それから数日後、片目が潰れたマフィアのカール・フォガティ(エド・ハリス)が店を訪れ、トムの過去と本性について話をし始める。


 何ともアメリカ的な映画だなーというのが第一印象だった。早い話が、妻エディ(マリア・ベロ)がチアガールのコスプレをしてセックスをし始めたところだ! 若い女性のヒエラルキーの頂点に君臨するチアガー(悲しみの自主規制)

 主題となるのは、先日鑑賞したジェームズ・ワン監督「狼の死刑宣告」と同じく「暴力の連鎖」。
 本作でも、あるきっかけによって暴力に身をやつした主人公が泥沼化された負の連鎖に陥ってしまう、という展開を見せているのだけども、「狼の死刑宣告」は一般市民に不条理な暴力が降りかかって来たのに対して、トムは過去に暴力性からの脱却を試みて(そして失敗して)いて、より一層、主題である「暴力の連鎖」が強調されていた。つまりここで描かれているのは、トムの姿を通した「911以降のアメリカの姿」であって、隣国カナダ出身のクローネンバーグによるアメリカへの冷静な観点からの批判性が多分に含まれているところが面白く思った。
 また本作の特徴の一つに、過剰なまでの暴力へのリアリティがある。具体的に言うと、拳銃で撃たれた人間が易々と死なずに苦しんでから絶命する。そこには映画的誇張は一切ない。暴力による"痛み"がもたらす恐怖を外的に伝えていて、そういった点も含めて、「暴力の連鎖」はどういうものであるのかを具体的に伝えていて良い。

 ただ、トムの過去に関する記述がとことん希薄な点が少々腑に落ちなかった。
 何故、トムは暗殺術を極めたのか。
 何故、トムは暴力性からの脱却を試みたのか。
 他にもフォガティとの一件や兄との確執についてなど黙されたままの謎は多々あるけれど、特に上記の問題は説明がほしかった。そういった点を敢えて削ぎ落とすことで、人間の見え隠れする多面性を狙ったのかもしれないけれど、それにしても説明不足に感じる。
 結局、トムという人間が記号化された存在としか感じられなかった。無駄はないけど不足はある、といった感じでした。

 日本版の予告編が見付からなかった……。残念。