三谷幸喜 - ザ・マジックアワー

 とある港町に拠点を構えるマフィア「甘塩商会」。マフィアのボス甘塩(西田敏行)の愛人マリ(深津絵里)に手を出してしまった備後(夫妻木聡)。甘塩は備後の失態を見逃す代わりに、備後の友人であるという伝説のスナイパーの"デラ富樫"を連れて来ることを命じる。デラ富樫とは縁もゆかりもなく、実は口からでまかせを言っていた備後は、売れない俳優村田(佐藤浩市)を映画の撮影だと騙してデラ富樫に仕立て上げ、この状況を乗り切ろうとする。


 相変わらず出演者が豪華なメンツばかりで、およそ90%の時間は画面に有名な俳優ばかりが映し出されていた。三谷作品にはお馴染みの役者ばかりだけど「うわあ、すげえ」とのほほんと考えながら鑑賞しました。
 ただ、三谷監督の映画作品に言えることだけども、「舞台でやった方が映えそうだなあ」という感覚は本作にもあった。
 まず、舞台となる港町の街並みのセット感が物凄い。途中でロケも行われていたのが余計に作り物っぽさを引き出してしまっていて、何だか港町だけが現実から切り抜かれた異質な空間になっていた。そこに違和感があってどうものめり込めない。セットや服飾はレトロ感があってオシャレで良いのだけども。

 ドタバタコメディとしてはとても楽しめた。村田が甘塩商会の事務所で何度もデラ富樫を演じ直して、何度もナイフをべろんと舐めるシーンは爆笑したし(甘塩が「それ、そんなに気に入ったの?」とビビりながら聞くシーン最高!)、暗殺を依頼された(という設定と思い込んでいる)村田が、至近距離から対象者をライフルで撃ち殺そうとしている場面は「何故!?」と思わずツッコミを入れたくなった。村田が甘塩の手下に役者として演技指導を行う場面も微笑ましい。村田が必死に芝居をしようとすればするほど緊張感と笑いが生まれる。元々、佐藤浩市は良い役者だと思っていたけれど、本当に上手いなあと思った。
 脇役も存在感があって良かった。クラブ「赤い靴」のバーテンダー鹿間(伊吹吾郎)も渋い演技が光っていたし、甘塩の側近黒川(寺島進)もいちいちデラ富樫の挙動に驚く場面は面白かった。
 ただ、脚本と演出が少しずさんな点が見受けられるのが残念。特に、売れない役者である村田が憧れの俳優高瀬(柳澤愼一)と出会い、マジックアワーに関しての話をする場面なんかは台詞が説明過多だし、映画なのだからそこは映像で語って欲しかった。ムダに韻を踏んでみた。

 それと深津絵里って清楚なお姉さんってイメージしかなかったのだけども、めちゃくちゃセクシーな雰囲気を出せることが分かって、それがこの映画を観ていて二番目に驚いたこと。甘塩の愛人をする前は踊り子だったんだけど、チャーミングでキュートでなおかつエロい。これは好みのタイプを深津絵里と答える御仁が続出するのも納得。すっかり虜になってしまった!
 そして一番驚いたのは、市川崑監督が出演していたこと。確かに本作でも他の三谷作品でも市川崑特有のタイポグラフィが用いられていたし、リメイク版「犬神家の一族」に三谷監督が出演していたけれど、まさかここに出演しているとは思わなかった……。