秋山瑞人 - イリヤの空、UFOの夏


 数年前、「涼宮ハルヒの憂鬱」に甚く感銘を受けて、近年の名作ラノベに手を出してみようと思い立って、真っ先に近所のブックオフでサルベージしてきたのがこれ。確かハルヒがアニメ化された時分に購入したと思うので、かれこれ七年前になる。……軽く眩暈がしてきた。
 長らく部屋の片隅で積読状態にあったのだけど、おのれのラノベブームが一ヶ月も保たなかったことも然ることながら、実は<その1>が行方不明で読むに読めなかった。私の性格をご存知の読者諸氏ならばご理解頂けるだろうが、私は面倒臭がりが脂肪を付けて歩いてるような人間なので、部屋が物凄く雑然としている。特に酷いのが書籍類で、未読、既読を問わずに、ピサの斜塔的な安定感を欠いたブックタワーが至るところに無数に存在している。自慢気に語ることではないけども。
 ところが、だ。先日、何の気なしに掃除をしていたらポロッと発見してしまった。探し物あるあるだ。そんな具合に、数年越しにやっと読むことが出来た。舞台が夏であることは気にしない。


 <その1>ということで、物語はまだまだ序盤っぽい様相。ただし骨子は端々に出てきているので、今後の展開や全体像は想像しやすい。
 早い話が、宇宙人と思しき不思議な雰囲気の少女と、平々凡々な少年による「セカイ系ボーイミーツガール」……なんだけど、ボーイミーツガール特有の甘酸っぱさをそこまで感じない。むしろ、ヒロインのイリヤと主人公浅羽の級友晶穂(並びにクラスメートの女子連中)との対立が妙に生々しくて、胃がキリキリしてしまった。甘酸っぺぇ雰囲気を期待していたので、これには度肝を抜かれた。これが「思てたんと違う!」ってやつか。
 しかしながら、如何にもラノベのキャラで御座い、というあざとい設定の部長が躍動していて大変良い。ああラノベ読んでるんだなあ、という牧歌的な気持ちになる。
 その部長(と浅羽妹)が最も活躍する尾行場面なんてめちゃくちゃ面白い。かつてバクマンでサイコーとシュージンが服部さんを尾行していたが、あれ以上のハラハラ感があるのではなかろうか。

 ところで本作について「文章が凄い」的な意見を以前からちらほら拝見していたのだけれども、思っていたほどではなかった。
 勿論、さほど読書家とは言えない私からしても、うーん、と疑問を抱いてしまう文章の作家さんはいるし、文章の上手さは水準を満たしているとは思うんだけれども、だからといって本作の著者が特別優れているかというと、やっぱり、うーん、だ。三人称と一人称のミックスにしても、本作よりも発表時期の早い「マリア様がみてる」ですでに見受けられるし。