生野慈朗 - 手紙

手紙 スタンダード版 [DVD]

手紙 スタンダード版 [DVD]

 両親もなく二人きりで生きてきた兄剛志(玉山鉄二)と弟直貴(山田孝之)。弟だけでも大学に進学してほしいという一心から、無理をして腰を痛め職を失ってしまった兄は、強盗に押し入った先で誤って人を殺めてしまう。無期懲役を言い渡され刑務所に服役する剛志は弟との手紙を唯一の楽しみとして生き、直樹は兄の存在によって社会から差別を受けながら生きていく。


 社会は人間の集合体であり、感情を持っている。必然的に社会は犯罪者に対して距離を置く。害意を向けることもある。加害者はそれを享受して生きていかなければならない。
 それは加害者家族にも当てはまる。社会で不当な扱いを受けなければならない。剛志は刑務所の中で社会と断絶しているが、社会に取り残され差別を受ける直貴の苦悩は計り知れない。
 劇中で勤務先の会長(杉浦直樹)から「社会が犯罪者の関係者を遠ざけるのは必然で、差別も仕方がない。だから差別から逃げず、ここで一から始めて生きろ(意訳)」と叱咤激励を受けるけれど、その言葉にすべてが集約されている。逃げることは出来ない、だから生きていかなければいけない。
 また、弟を愛する兄を演じた玉山鉄二が素晴らしかった。山田孝之杉浦直樹、被害者の息子である吹越満も好演していたけれど、玉山鉄二が終盤に見せた、肩を震わせながら手を合わせて号泣する姿ですべて持って行った感がある。役者スゲェ!
 映画の立場上、若干加害者側に肩入れし過ぎているきらいもあるけれど、とても心温まる映画でございました。

 ただ、気になる点もちらほら。
 まず、邦画全般に言えることなのかもしれないけれど、音楽が過剰であること。劇中で何か起こる度に悲壮感を煽る音楽が流れていた時点で嫌な予感がしていたけれど、小田和正「言葉にできない」が終盤に流れたときは「サァ皆様、ここで号泣ですよっ!」と満面の笑みで言われて気分になって逆に笑える。(過剰な音楽での成功例は、思いつく限りでは北野武監督「あの夏、いちばん静かな海。」ぐらいで、あちらは台詞が極端に少ないからこそ音楽が雄弁に語ることを許された)
 次に、直樹と祐輔(尾上寛之)によるお笑いコンビのネタがくそつまらなかったこと。相当な売れっ子お笑いコンビだったようだけれど、基本的にスベっている。何故にこれがそんなに売れるんだろうか、と思ってしまった。
 最後に、ヒロイン由美子(沢尻エリカ)の関西弁。誰が聞いてもエセで、何でわざわざ関西弁にする必要があったのかわからない。ただし沢尻エリカの可愛さは画面を通じてぶりぶり感じたので、改めて絵になる女優だなあと思った次第であります。可愛いは正義ってやつだな!