シン・テラ - 黒い家

黒い家 スペシャル・エディション [DVD]

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 保険会社の査定員として働くチョン・ジュノ(ファン・ジョンミン)は、ある日、自殺した場合は保険金は下りるのか、という電話を受ける。電話の主が自殺をしてしまうと思ったジュノは、会社の方針を無視し、自殺を思い止まるよう説得する。数日後、保険加入者のパク・チュンベ(カン・シニル)の家を訪れたジュノは、首吊り自殺をしているチュンベの息子の姿を目撃してしまい、チュンベとその妻シン・イファ(ユ・ソン)による執拗な保険金請求を受けることになる。


 森田芳光監督によって映画化された貴志祐介サイコパスホラー小説を、韓国でリメイクした作品。
 ホラーに奇怪なコメディ要素を織り交ぜることで、異様なコントラストを生み出し、不気味な怪作に仕上げた森田監督版黒い家は、評価は賛否両論だと思うけれど、役者陣、特に大竹しのぶの熱演が素晴らしかったので、とても見応えがあった。
 また、賛否両論の火種であるコメディ要素も、シュール過ぎてワケワカラン感が不気味さに拍車を掛けていて、個人的には断然ありな作品です。シュールなコメディによる不気味さという点で考えると、八十八ヶ所巡礼のPVにも通ずるものがある。

 一方の本作韓国版はというと、当然のように森田監督特有のコメディ要素はオミットされていて、その代わりにグロ要素をてんこ盛りにした、サスペンス風味のホラー映画に仕上がっていた。
 つまりは、だ。森田監督版の名シーンのひとつ、幸子(韓国版ではイファ)の「乳しゃぶれー!」は見れないわけで。しかしながら、イファを演じたユ・ソンが吉高由里子風な美女だったのでおっぱい見れたらいいなーとかちょっぴり期待してしまったのは私だけではない……はず。
 ただ、そのユ・ソンの華奢な美女っぷりが見事に作品から浮いていて、身近に潜む人間の狂気、というこの作品を語る上で外せないテーマが薄れてしまったのは残念。旦那役のカン・シニルは松尾スズキ風なその辺にいそうな胡散臭いオッサンっぽいし、主役のファン・ジョンミンも唇の荒れたオードリー春日のような風体だったので、男性陣に関しては妙なリアリティがあって良かったのだけども。
 とは言え、この作品は何と言ってもグロが凄い。空白の美学なんて知らん、とにかく現実にある汚物を見せる! とでも言うかのように、エグい場面のオンパレード。何よりも演出による魅せ方がとにかく秀逸で、特に中盤で見せた、腕が裁断機に挟まれる場面は目を覆いたくなるほどのエグさだった。気合の入れ方が違う。
 そしてラストが素晴らしい。サイコパスは身近に存在する、という恐怖は無限回廊のように終わらない。演出がとても上手い監督だなと思った。

 日本版と比較すると、こちらの方がホラー映画として機能している分、韓国版の方が頭カラッポにして楽しめるエンタメ作品ではあると思う。
 ホラー映画として楽しむなら韓国版、ゲテモノを楽しむなら日本版、という分け方で良いのではなかろうか。