きらたかし - 赤灯えれじい

赤灯えれじい(1) (ヤンマガKCスペシャル)

赤灯えれじい(1) (ヤンマガKCスペシャル)

赤灯えれじい(15) <完> (ヤンマガKCスペシャル)

赤灯えれじい(15) <完> (ヤンマガKCスペシャル)

赤灯えれじい 東京物語 (ヤンマガKCスペシャル)

赤灯えれじい 東京物語 (ヤンマガKCスペシャル)

 ハチクロに続いて、またも恋愛の漫画。

 気弱で冴えないヘタレ男サトシと、喧嘩っ早いが純情なキンパツ女チーコによる、大阪を舞台としたフリーターの恋のお話。


 ヤングマガジン連載中に途中から追いかけていて、うへーチーコかわいーなー、とかのほほんと思いながら読んでいたのだけども、改めて一巻から目を通してみると、大筋でのチーコかわいいよチーコという愚昧な感想はブレはしないが、想像以上の傑作だった。
 チーコを簡単に言ってしまえば、萌え属性のひとつであり今現在最も幅を利かせているであろうツンデレキャラになる。一般的に言う萌えキャラには反応しないのにチーコは可愛いと思えるのは何故か。媒体が違うだけでキャラクターに対する印象が変わるのだから、私は物事の本質を捉えることが出来ていないのだなと軽くへこんだ。
 いや、それは心底どうでもいい。そう、チーコだ。
 だってサトシが「夏祭りに浴衣で来てくれ」というお願いを拒否しながら、一応浴衣を着てみたり(結局小さかったので着て行かなかった)、サトシのワイシャツを洗濯したらシワクチャになって焦ったりするんだぜ? 可愛いと思うなと言うほうが無理な話じゃないか。

 さて。ヘタレ男と可愛い女の子の恋愛というと、同じくヤングマガジンに連載していた古谷実シガテラ」の南雲さんを思い浮かべる。
 南雲さんはある意味で達観したようなキャラクターで、能動的に荻野を諌める、言わば人生の道標として物語に存在する。私は以前、南雲さんに対して本気で恋心を抱いたことがある。キャッ!
 一方のチーコはというと、基本的に何もしない。その上、サトシの行動に腹を立ててぶん殴ることも多々ある。頑張れと軽く応援することはあってもしっかりとした助言はほとんどなく、南雲さんの対極にある存在とも言える。
 けれどサトシは、ヘタレから脱却するために、一歩ずつ一歩ずつ、ゆっくりながらもしっかりと足を進める。理由は簡単で、それはチーコが大好きだから。「このままではいけない、チーコに釣り合う男になりたい」という愚直なまでの思いを抱えながら成長して行く姿は、本当に感動的だった。
 チーコの方もサトシと出会ったことで成長をする。喧嘩っ早い性格が完璧に治ったとは言い難いが、家族も認めるほど丸くなったし、相手を思い遣る強さも手に入れた。

 他にも素敵な登場人物はいる。特にお気に入りなのは、サトシの友達シゲルと、サトシのバイト先の後輩赤沢くん。
 シゲルは彼女が出来ず、二次元にハマったり、出会い系で知り合った女の子に即行でフラれたり、風俗で筆下ろしをしようと目論むも失敗に終わったり、なんというかダメ人間特有の異質な存在感がある。劇中、彼女が出来たことで妬むシゲルに対して、サトシが「オレはツイてただけかもな」と漏らす場面があるけれど、その場面を読むとシゲルはある種のメタファーとしての存在でもあることが分かる。
 赤沢くんはオチムシャーズというインディーズバンドのギターヴォーカルなのだけども、頭に矢が突き刺さってるインパクトだけで頭に残ってしまった。よつばなら「病院行け? な?」と言ってくれること間違いなしだ。

 物語はそこまで劇的な盛り上がりを迎えることはないし、展開も至ってシンプル。だからこそのリアリティがあって、サトシとチーコの関係が成熟していくのも、微笑ましく思える。それと人情味を感じさせる関西弁が、物語の雰囲気にマッチしていて本当に素敵。舞台が関東だったらまた少しテイストの違うマンガになっていたと思うし、そうでなくて良かったなとも思う。