秋山瑞人 - イリヤの空、UFOの夏

 前巻の続き「正しい原チャリの盗み方-後編-」からスタート。


 浅羽と伊里野を尾行する、部長と浅羽妹のデコボココンビのやり取りが微笑ましくて大変良い。思わずニヤニヤしちゃう。そして尾行に気付いた伊里野(と付随する浅羽)とのハイスピードかつハイテンションで疾駆する鬼ごっこへ。文章も乗りに乗っているし、溢れんばかりの疾走感が何とも素晴らしい。
 いやしかしスゲェな部長。水前寺邦博殿万歳! って感じで、ちょっと、崇拝しても……いいかなって。
 前巻での活躍と同様、今巻でも完璧超人たる彼の存在感は抜群で、相変わらずその場にいるだけでクドい。だが、それがいい。彼の冴え渡る推理は名だたる名探偵にも匹敵するほどで、なんかこう、非常にくるものがある。中二病マインドをくすぐられるキャラクターで、私にとってはちょっとキケンな存在だ。

 今巻のメインとなるのは「十八時四十七分三十二秒」なる学園祭での物語。主要人物も勢揃いして、各キャラクターの視点から学園祭での出来事が描かれて、少しずつ物語が動き始めて行く。
 その中で最も印象的だったのが、浅羽のクラスメートにして同じ新聞部に所属する晶穂。伊里野の陰に隠れているけれど、浅羽にとっては最も近しい存在であるというのに、何ともまあ不遇なヒロイン街道を驀進中で切なくなってくる。
 物語としてのヒロインは伊里野であるし、晶穂は言わば裏ヒロインなのだけども、伊里野が浅羽の中で絶対的な存在として位置するようになったことを理解した晶穂はとても悲しみ、苦しむ。その辛さが身に沁みるように切々と伝わってくる。とても読み応えのある筆致で、お見事としか言いようがない。
 次巻からは後半戦に突入するし、展開的には日常パートは少なくなるのかなと思う。覚悟しなければ!