太田忠司 - 奇談蒐集家

奇談蒐集家 (創元推理文庫)

奇談蒐集家 (創元推理文庫)

 新聞の片隅に掲載された「自ら体験した不可思議な話、求む。高額報酬進呈。ただし、審査あり」という募集広告を元に、英国風バー「strawberry hill」に訪れた人々が、奇談蒐集家の男と謎めいた美貌を持つ助手を相手に"奇談"を披露する、連作短編集。


 体験を語る本人すら気付かなかったトリックを助手の氷坂が解決する、ごくごくありふれた安楽椅子探偵物、といった様相。
 各話に登場する人物が少なかったり、そもそもがヒントを与え過ぎていたりするので、探偵役にあたる氷坂が真相を究明する前にトリックを見破ってしまうことがしばしばある。正直に言うと、ミステリに精通していない私でさえクオリティが低い作品だなと思った。
 敢えて言えば、奇談蒐集家の恵美酒のもっともらしい薀蓄語りや、恵美酒と客や氷坂とのやり取りに妙味があるので、それが本作の売りなのかもしらん、と感じながら読んだ。奇談として語られるパートは幻想怪奇的な味わいでそこそこ面白い……ような気もするし。
 各話のタイトルだって素敵だ。「古道具屋の姫君」や「冬薔薇の館」など、耽美的な匂いと埃臭さを併せ持っていて何だか良い。江戸川乱歩横溝正史を愛好している私の琴線を刺激する、非常に素晴らし……ごめん、もうやめようか。いや、実際に「冬薔薇の館」辺りはとても幻想的な雰囲気が漂う素敵な短編であることに間違いはないのだけれども。

 ところがだ。連作の最後を飾る「すべては奇談のために」で、ものの見事に裏切られた。勿論、良い意味で。
 各話が「すべては奇談のために」を構成するパーツであったことが判明し、そこから濁流のように張り巡らされていた伏線の回収が始まる。「すべては奇談のために」というタイトルが示す意味とは何なのかが分かった。
 ミステリ読者が本作を受け入れられるかと問われたら、答えは多分「ノー」だと思う。結果としてはふわふわとした掴みようのない感覚のまま大団円を迎えるのは紛れもない事実。だけども、この一冊を以って"奇談"なのだという作者のストレートな答えは、単純に爽快で気持ち良かった。連作短編集という枠組みの持つ旨味が凝縮された作品だと思う。